2014年度 一般社団法人淡路青年会議所 理事長所信 第52代理事長 原田 啓行
「足るを知る者は富む」――欲深くならず身の丈にあった満足を手に入れることで、貧しくとも心豊かな人生を送ることができるという教えです。確かに、絶えることのない人間の欲望を戒めるという意味で必要な考え方なのかもしれません。しかし、明るい豊かな社会を目指す我々青年にとって、必ずしもその考えが当てはまるとは限りません。青年会議所運動は、戦後の荒野から日本の再建を誓った若者たちにより興されました。未来へ希望を抱き、額に汗した先人たちの目の前には、きっと燦然と輝く豊かな世界が広がっていたことでしょう。
この淡路島においても「淡路はひとつ」の理念のもと、地域のひとづくり・まちづくりを目的とした活動が半世紀以上もの間、一貫性を持って行なわれてきました。故郷を想う諸先輩方による活動の積み重ねと、その活動に対する関係各位のご助力があったからこそ、今日の我々があることに心からの敬意と感謝を忘れてはなりません。これまでの活動はすべて、時代の潮流に鑑み、未来をしっかり見つめ本質を追求してきたものでありました。それは、周囲に迎合するものではなく、時代の先駆けとしての気概と行動を持って示されてきたものです。誰もが理解しやすい手段は受け入れられやすく、すぐに忘れ去られてしまいます。時代が変わっても、地域に対し何をどうするのか、正論を述べていくことが我々に与えられた使命の一つであります。そして、それらは積み重ねられることにより歴史となります。温故知新という教えがあるように、下手に奇を衒うことなく、これまでの成果をじっくりと学びとり、そこから着想を得る必要があるものと考えます。変えてはならないものとは物事の本質であり、変えなければならないものは環境の変化による手段です。「地域を愛するのか、地域から愛されたいのか」――我々が選択する道はどちらなのか極めて明白ではないでしょうか。そのような自覚と責任を持ち、決して怖れることなく勇気をもって行動して参りましょう。未来は日々の挑戦を一つずつ積み重ねることにより創られるのですから。
元来、日本人が大切にしてきたマインド(心・精神・意識)をもう一度取り戻すべき時代になってきました。我々の世代は青年期においてバブル期を経験せず、失われた20年と呼ばれる真っただ中を歩んできました。そのような暗い世相であっても、いまだ物質的には豊かであり、何でも簡単に手に入るという二律背反する時代に生きています。ともすれば、日々の生活が楽しければそれでいいといった享楽的な過ごし方をしてしまいがちではないでしょうか。くわえて、必要以上に「個」を尊重する風潮により、利己的な考えを持つ人が多くなってきたようにも感じます。それが行き過ぎると、組織やコミュニティー、ひいては社会が健全な形で存在できなくなり、衰退へ歩みを進めてしまうことも否めません。自己中心的な考え方ではなく、周りがあって自分が存在できるという感謝の心を持ち、「利他」なきところに「自利」は決して生まれないことをしっかりと認識する必要があるでしょう。他者に敬意を払い、他者を思いやり、他者を中心に据えた上で、身の回りの出来事を自らの責任と捉え、さまざまな問題に対し積極的に行動を起こせる真のリーダーシップの開発に取り組んでまいります。このマインドの育成こそが、これまでの成長の原動力であったイノベーションに代わる、新しい価値観や在り方になると確信します。
現代社会において、知識の重要性は以前に比べ低くなったといわざるを得ません。それはITの発達によりいつでもどこでも容易に知識や情報を引き出せる世の中になったからです。しかしながら、豊富な知識があっても、それを生かすスキルやセンスがなければ宝のもち腐れになってしまいます。それらを身につける為には、まず自分の限界を超える体験をすることが必要不可欠となってきます。本を読むことや勉強会に行く事ももちろん大切なことですが、ほかの誰かの経験や実績などをそのまま自分に当てはめることなどできません。なぜなら、人それぞれの段階に応じた学びがあるからです。おのおのの立場において、自分が行動を起こした分だけ、自分は何ができて何が足りないのかがわかると同時に、その気づきそのものが自らの視野を広げることになるのです。この活動の中で人と人とが真剣に関り合い、ともに困難を乗り越える体験ができれば、それがその人にとっての一生の宝物になることはいうまでもありません。
「魅力的な団体なのであれば、会員拡大活動など必要ないのではないか?」――以前、会員拡大活動の最中に皮肉を込めて投げかけられた言葉です。確かに、魅力あふれる場所には、労を要せずとも、おのずと多くの人が集うと考えるのはごく自然なことです。あるいは、入会することにより、それぞれが明白なメリットを享受できるような団体であるなら、入会希望者が後を絶たない状況になるのかもしれません。しかしながら、青年会議所の本質はそこにはなく、おのおのが感じる魅力についても実際に活動することで初めて見出せるものです。また、慌しい日々に折り合いをつけ、自らの意思でまちづくりへの参画を望む人も残念ながら多くは存在しません。その反面、我々がどのような目的で活動を行い、何を目指している団体なのか地域に深く認知されていないことも事実です。その現状を真摯に受け止め、いままで以上に幅広くJC活動を発信していくとともに、より多くの人との接点を創出していく必要があると考えます。そして、できるかぎり入会を阻害する要因を取り払い、「個」の力だけに頼らない拡大活動を戦略的に運営していくことがこれからの時代に必要不可欠です。青年会議所のメンバーが増えるということは、すなわち、志を同じうする仲間の輪を広げることであり、それそのものがまちづくりの一環であるといっても過言ではありません。 まちづくりの課題の原点は、人それぞれ豊かさの概念が違うところにあります。まず、その地域に住まうすべての人の豊かさを追求すれば、個性のないどこにでもある地域になるでしょう。同様に、便利さを追求すれば自然が失われるというジレンマに陥ります。また、地域にとってすでにある財産が多ければ多いほど、さまざまな思惑が交錯し、身動きが取れないといった事態を生んでしまうこともあるでしょう。そのような状況を切り拓いて行く為には、まず、何を「捨て」、何を「守り」、どう「創る」のかという観点がこれからのまちづくりに必要であると考えます。捨てることは本当に守るべき物を見出す行為であり、そこから生まれ出る大切なものをよりいっそう磨き上げる行為にほかなりません。したがって、無いものを一から創りあげたり、単純に他方より持ってくるという行為は賢明な選択ではありません。地域にとって絶対に失ってはいけないものは、伝統・文化・風土・立地などに裏付けられたアイデンティティーです。なぜなら、長い年月をかけ積み重ねられ、今日まで紡がれてきた歴史そのものであるからです。先人から受け継がれてきた素晴しい財産をあらためて深く理解し、時代に則した発想を持ってアイデンティティーを再生することで、新たな創造が行われます。今こそ、地域の在り方を明確にする為に、「選択と集中」を図り、進むべき道筋を示す羅針盤(コンセプト)を手に入れなければなりません。
淡路島が淡路島らしい魅力を放つためには、グローバルな視野をもってローカルを考えるという観点を持たなければなりません。すなわち、淡路島の外からの視点で独自性や魅力、そして何より、求められる担いを俯瞰的に考察する必要があります。淡路島に訪れる人々はどのようなことに期待し、魅力を感じているのか。淡路島は訪れる人々やほかの地域に対しどのような価値を提供できるのか。このような相手を中心とした捉え方が非常に大切なことであり、見方を変えれば、淡路島に従来より根付くホスピタリティ精神そのものであると気づくはずです。
経済活動と同様に地域も競争社会の中にあり、役立つものであれば必要とされ、そうでないものは必然的に淘汰の道を歩むしかありません。そうならない為にも、淡路島の特色をブラッシュアップし、どこの地域よりも魅力的で価値の高いものを目指していく必要があります。そのためにはまず、自分達の利益の為に行うまちづくりという視点を捨て去り、地域も人や企業と同様に、相手に貢献するという価値観を持たなければならないのです。利益の享受は結果であり、目的ではないということをあらためて認識しましょう。そうすることにより「淡路島という地域」が必要不可欠な存在となり、また、それを目指す行為の積み重ねが、人々の地域に対する誇りになると確信します。
青年会議所の三信条である「奉仕・修練・友情」は、我々にとって決して揺らぐことのない尊い価値観です。三つの信条それぞれが独立して意味を成しているのではなく、すべてが密接かつ有機的につながっています。つまり、真剣にまちづくりに取り組むことにより、心とスキルが磨かれ、お互いに切磋琢磨することにより本当の友情が築かれるものと思います。このような人と人との関り合いの中で、自分自身が意識している、していないに関らず、さまざまな場面でたくさんの人から教えられ、励まされ、救われているはずです。周りから与えられ、生かされているということを理屈ではなく肌で感じ、心で理解しなければなりません。それができれば、おのずと「させていただいている」という感謝の気持ちが沸いてくることでしょう。その上で、身の周りに義理を返していくことは当然、自分を育ててくれた親、仲間、そして故郷に感謝し、受けた恩を次の世代へと紡いでいくことは我々にとってまごうことなき義務なのです。
同じ時代に生きる同志とともに、未来を切り拓く勇気をもって挑戦してまいりましょう。それは、かけがえのない瞬間をともに刻み、地域の歴史に新しい1ページを綴ることになるのですから。
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